思い出の一冊~『清兵衛と瓢箪』~

2014年9月21日

2014-09-06 11.07.21

図書ボから“思い出の一書”を聞かれ、実に迷った。が、強いて一冊挙げるとなるとこれでいく。志賀直哉作『清兵衛と瓢箪』。小学六年生の頃、父から「あっという間に読み終えるから読みなさい」と薦められて読んだ短編小説。読み応えや中身はともかく、私が“読書は何ぞや”を考える契機となった一書であることは間違いない。

読後、書棚にしまおうとした時のこと。志賀直哉の『創作余談』があるのに気がついた。創作の経緯や工夫、裏話などが書かれていて、この『清兵衛と瓢箪』は、作者が尾の道から四国へ渡る汽船の中で乗客がしている話を聞き、題材に選んだとか。まるで天才作家・志賀の頭の中を覗き見させてもらえたようで、わくわくしながら読んだのを覚えている。途端に、志賀直哉に親近感を覚え、読み漁るようになった。『暗夜行路』『和解』『正義派』・・・。正直、小学六年生の私が内容を把握するわけもなく読破したとは言い難いが、寝食を忘れ没頭し、志賀直哉の本を全部読んだのは事実だ。清兵衛にとっての瓢箪は、私にとっての志賀直哉だったのかもしれない、と今更に感慨深く思うときがある。

して、“読書は何ぞや”の答えであるが、さすがに最近ではおぼろげに掴めてきているのだが、未だ言い得て妙と言える表現が見つからない。志賀なら、的確にどんぴしゃりとキレのある明答を出してくれるだろうに・・・。そんな作家たちの気持ちのいい“キレッキレの言葉”を見聞きできるのだから、読書とは快楽であることには間違いない。(Iより)

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